湯煙の向う 第3話

銭湯にはよく行くが、昼の銭湯は初めてかもしれない。夜とは客層が大分違っている。日差しを遮りながらゆらゆらと湯煙が立ちのぼる。

「あぁ~良い湯だ」思わず声が出る。肩まで浸かり足を伸ばせる、これが家風呂との違いだ。広い湯船は心も体も開放できる。

 

ぼーとしなから辺りを見渡す、「夜と違って年寄りが多いなぁ」、数十年後の自分を思い浮かべる。「あーは、なりたくない」、腰が曲がり、やせ細り、皮と骨に、ゆっくりと死へ向かって衰えていく、人の一生って儚いものだ。

 

「そうでもないぞ、若い人!」、初老の老人が話しかけてきた。顔は湯煙でよく見えない。「思考を読んだぁ?」、不思議な感覚。

「人は何度でもこの世に生まれ変われて、成長し続けられるのだから」、うらやましいものだ。 「人はって、どう言う意味ですか?」、湯煙の向こうにもう誰もいない。

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