御仁と眉間のシワ 第9話

何故だか分からないが、先ほどから眉間にシワを寄せた御仁がこっちを睨んでいる。自分がこの店に入った時には、他の客は誰も居なかったはずだが・・・。彼はいつから居たのだろうか?なぜ眉間にシワを寄せているのだろうか?気にはなる。「マスター、ブレンドコーヒー!」、携帯でメールのチェックをしながら、午後の仕事の段取りを考えていた。

 

「そう言えば」、新企画のプレゼンのとき、取引先の部長さんからは、とても前向きな姿勢を感じられていたのだが、昨日の打合せでは、少し様子が変だったような気がしてならない。ふと顔を上げると、先ほどからこちらを睨んでいる御仁と目が合った。「ん!!」、確か、取引先の部長さんも一瞬だが、あの御仁と同じように眉間にシワを寄せていたことを想いだす。再び顔を上げると、御仁の姿はどこにも見当たらなかった。「消えた!?」

 

後日、胸のうちを取引先の部長さんにぶつけてみると、ライバル企業との相見積が発覚したのだ。危なく新規プロジェクトをライバル企業へ持って行かれるところだった。今から想うと、「喫茶店で睨んでいたあの御仁は、この事を分かっていて、自分に気付かせようとしていたのではないか?」、不思議な体験だった。

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