木枯らし一号 第30話

ここのところ朝晩はめっきり寒くなった。もうソロソロ衣替えをしなければと思いつつ、日頃の忙しさにかまけてまだ出来ていない。せっかくの休日はゆっくりとしていたいからだ。

午後になって、暖かな陽射しが窓から差し込み、急に外に出掛けてみたくなった。「やっぱりちょっと外は寒いなぁ」、カーディガンの一枚でも羽織れば良かったと後悔しながら近くの公園に向かった。

 

紅葉迄にはまだ早い、イチョウ並木を横目に公園に向かってゆっくりと歩いていると、突然、身体ごと吹き飛ばされそうな突風に見舞われ、無意識に飛ばされまいと前傾姿勢で踏ん張っていた。踏ん張れば踏ん張るほど風の抵抗は強まり、身体を押し戻そうとする。「これって木枯らし一号?」

 

 次の瞬間、風の抵抗が急に無くなり、まるで身体の中を風が通り抜けてゆく感覚、細胞の一つ一つに風が触れ、少しこそばゆい感じだが、風と一体化し、風からのメッセージが身体の隅ずみに行き渡るのを感じた。「今年の冬は厳しい寒さになるよ」、そう聞こえたような気がする。「そうだ、早く帰って衣替えをしよう」と心の中でつぶやいた。

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